深夜のコンビニ。
アルバイト店員(20歳 大学生)×客(28歳 売れない恋愛小説家)。
27時に会いに行きます。
今夜も部屋に閉じこもって、雑誌の片隅に載せる官能小説を書く。
仕事があるだけマシだと担当は言う。
でも、僕が書きたい小説はこんなのじゃない。
ちゃんとした、純文学。
芥川賞とか取れちゃうような大作を描きたいんだ。
けれども僕の中には「僕には才能ない」「書けるわけがない」と、冷めた目をして否定する自分がいる。
そんな曖昧で憂鬱な僕の毎日の中で、彼に出会った。
「いらっしゃいませ!!」
深夜、煮詰まった時にふらりと息抜きに行くコンビニ。
妙にテンションの高いアルバイトの店員は、太陽のような笑顔で挨拶をする。
この時間には似合わない爽やかさは、ちょっと滑稽ではあるけど、いつしか僕はこの笑顔に癒されるようになっていたんだと思う。
「今日はもう来ないかと思ってました」
「・・・・うん、迷ったんだけどね・・・」
迷った理由は、ひとつ。
ここ数か月で顔見知りになったこの店員に、約24時間前、告白されたのだ。
彼がゲイだったことにも驚いたけれど、それよりもその対象が自分だったことに衝撃を受けた。
動揺のあまり、昨日は考える時間をもらうことしかできなかった。
「あの、昨日のことなんですけど・・・」
缶コーヒーのバーコードを読み取りながら、そう控え目に彼が切り出した瞬間、
「動くな!!金を出せっ!!」
入口の方から叫ぶような怒鳴り声が聞こえて、反射的に体が飛び跳ねた。
「静かにしろ! 動くなよ」
黒づくめで、フルフェイスのヘルメットをかぶった男が、包丁を盾にしてわめく。
一瞬、何がなんだかわからなくなって後ずさると、男は過敏に反応して僕の鼻先に包丁の先を突き付けた。
「丹野さんっ!」
レジカウンターの中から身を乗り出して僕の名前を叫ぶ。
「動いたら殺すぞ!」
突きつけられた包丁に足がすくんだ。
かすかに赤黒い血の痕が目に入った。
先週の、数キロ離れたコンビニで起きた強盗殺人事件の報道が脳裏を駆ける。
殺される――――――。
こうして、長い長い1日が始まった。
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