始まりの日

記憶 - 8

尾形澄人

 皇居外苑の桜並木のベンチに座って、広い遊歩道を挟んだ向こうの芝生で呑気にコンビニ弁当を食べる40代と20代のサラリーマン2人(どう見てもゲイカップル)に、無性にイライラした。
 おかずの交換とかするな。食べこぼしの面倒とかみるな。誰も見てないと思って相手の指舐めるな。
「動画撮ってYouTubeにアップしてやろうか………」
 世間にゲイだとバレて、その平和ボケした2人の関係がさっさと終わればいいのに。
 いや待て、これじゃ無差別殺人とか通り魔が言う「誰でもよかった」的な虚しすぎる発想だろ――――そう思って、雨宮と横浜に行った時のことを思い出した。
 雨宮が運転免許を取って、俺の車に慣れるために横浜までドライブした。その目的地のカフェでのことだ。

 黄色のソファーが目立つ60年代アメリカ風の明るい内装とは裏腹、なぜか雨宮が一ノ瀬にレイプされそうになった時の話題になった。
 雨宮が、あの時の俺とのセックスはドラッグのせいだと執拗に言い張るから、いい加減イラっとして、
「それでも俺は雨宮が好きなんだから、あんなサービスされて嬉しくないわけねーだろ。おまえにどんな事情があったとしても、俺は勘違いするくらい嬉しかったんだよ」
 思わずきつい口調で、嘘をついた。
 本当は嬉しいどころか、虚しくてイタいだけだった。けれども雨宮が俺を排除しようとしている事にムカついて、半ば勢いで嘘をついた。
 雨宮があの時の自分を正当化するためにそう思いたいのは分かる。けれど、俺があの時何を思ったのか、どれほど辛かったのかをまるで無視することに腹が立った。
 そうやって俺と向き合うことから逃げる雨宮に。

 雨宮はわざとなのか、「サービスって……」と呆れて見せて、
「でも、あの時の俺は本当に誰が相手でもよかったんだよ」
 そう言って、白い皿に残った付け合わせのポテトをフォークでつつきながら嫌味っぽく続ける。
「っていうか、こんな恩着せがましく言われるくらいなら、あのまま一ノ瀬にされてた方がよっぽどマシ」
 ムカつくな。論点をずらそうとしてるのが見え見えなんだよ。俺がそんな皮肉にいちいち楯突くとでも思ってんのか。
「そういう意味じゃない。いつまで嘘をつくんだって話だろ」
「嘘なんてついてねーよ」
 そうしらばっくれた雨宮の唇が、一瞬震えたのを見逃さなかった。
 やるなら、もっと上手く演じろよ。
 俺に気づかれないように、もっと徹底的に俺を騙さなきゃ、ただ残酷なだけだ。

「逃げるなよ、雨宮」
 無性にイライラした。
「そうやって自分に言い訳して、ずっと逃げてるんだろ。俺や誰かと深く関わることから」
 優しい言葉なんてかける余裕は、とっくになくなっていた。
「俺に裏切られるのが怖いんだろ? 自分が傷つくのが怖いから最初から俺とは深く関わらないようにして、自分の気持ちも否定して、その上、俺の雨宮に対する気持ちまで否定してるんだろ。それが相手を傷つけてるってことに、なんで気がつかないんだよ」
 目を見据えて雨宮の本心を射抜くと、雨宮は傷ついたように俺を見た。
 それから、ゆっくりと視線を伏せた。
「尾形は、そんなこと言ってる尾形は何人裏切ってきたわけ? 5股なんかしてたくせに、自分のこと棚に上げて偉そうに言うなよ」
 俺を見もせずに、もっともらしい反論する。
 確かに、俺は軽蔑されるようなことをしてきた。俺の過去を知ったら、本気で俺と付き合おうなんて奴はいないかもしれない。
 それでも、雨宮に対するこの想いまで頭ごなしに否定される筋合いはない。

 俯いたままの雨宮を見据えた。
「俺は、雨宮だけは裏切らない。じゃなきゃ撃たれてまで守るわけないだろ」
「調子よすぎて怒る気にもなれねーよ………」
 雨宮は軽く嘲笑うように呟いた。
 俺の生死をさまようような決死の行為が雨宮にとってはその程度のものだったのか、それとも次の言葉のための演技だったのかは、分からなかった。
 ただ、少しの沈黙の後に俺を見た雨宮の眼は、小さく揺れていた。
「だいたい、この世界で俺が誰かとどうこうなるなんて、絶対におかしいじゃん」
 タイムスリップした人間が、過去で誰かと深い関わりを持つのは不自然だと言いたいのか。
 雨宮が本気でそんなことを考えてるとは思えない。もし本当にそう思ってたら、俺の家にいるはずがないし、他人の命に直接関わる医者なんて職業を目指すはずがない。でも俺がそう反論したところで、雨宮は別の理由を作るだけで、結局何も変わらないんだろう。

 いつもこうだ。
 俺と雨宮の間にある溝は、日常の生活や会話で少しずつ、確実に埋まっていく。
 けれども、その溝がある程度浅くなったところで、雨宮はもっともらしい理由をつけて俺を牽制し、また溝を掘りなおす。
 だからといって、無理に俺から近づいたら雨宮はあっさり手の届かないところへ消えてしまう。そう思うと強引なることもできない。

 手を伸ばせばギリギリ届くところにいるのに、間にある溝はとてつもなく深い。
 そんな感じだ。

 雨宮に復讐なんていう目的がなかったら違ったんだろうか。
 雨宮がどこにでもいる普通の高校生だったら、自分の気持ちを素直に表現するんだろうか。
 相手が俺じゃなかったら、雨宮は受け入れるんだろうか。
 そんな意味のないことを考えずにはいられないくらい、追い詰められている自分に気づく。

 俺は、自分でも気付かないうちに、気持ちを抑えすぎてたんだろうか。
 抑えすぎて、気づけば前にも後ろにも進めない。
 がんじがらめになって、雨宮に八つ当たりして、雨宮を傷つけて。
 こまま一緒にいたら、取り返しのつかないほど雨宮を傷つけてしまいそうだ。

 自嘲ぎみに吐き出した溜め息が、桜混じりの風に流された。

 

雨宮陽生

「で、雨宮君って何者?」
 駅前のスタバに入って、オーダーしたドリンクを持ってテーブルにつくなり、俺の正面で川崎が下世話な世間話でもするように切り出した。
 隣で肩身を狭くして自分の財布の中をのぞいていた深山が顔を上げる。
「あ、そういえば、雨宮総理の孫と同姓同名だよな」
「おまえ、口出すなって言っただろ…………」
 いくら追い払っても「尾形さんに顔向けできない」とか「借りがあるんだ」とかワケわかんないことを言ってついてくるから、口を挟まないことと奢るのを条件にしぶしぶ容認してやったのに………話し始めて3秒でその約束を破るって、どういう海馬かいばしてるんだよ。
 呆れながら睨みつけると、深山は「はいはい、すみませんね」と嫌味っぽく言って、カップにストローを押し刺した。
 そして俺の正面では、川崎が白々しく、
「へー、あの保険証、自分のだったのか。ますます怪しいね」
 とっくに調査済みのくせに。全部深山のせいだ。
 呑気にアイスコーヒーを飲む深山をもう一度睨みつけると、川崎が薄い唇を歪めて笑った。
 こいつ、どこまで知っているんだ?
 さっき「麻布事件」って言ったけど、あの事件の通称を知っているのは警察の中でもごく限られた捜査員だ。つまり、川崎はただの噂としてじゃなく、事件の関係者からも情報を得ているってことになる。
「雨宮君の同姓同名はただの偶然じゃないんだろ?」
「俺の素性を聞く前に、なんで俺のこと調べてるか話すべきだと思いますけど」
「あぁ俺? 俺は売れるネタならなんでもいいんだけど」
 川崎は俺が一番イラッとする答えを、一番イラッとする軽い口調で言いながら、アイスラテを一口飲んだ。そして、わざとらしく「あ」と声を上げる。
「君、入試成績トップで入学したんだって?」
「うっそ、おまえ医学部だろ!? すっげぇー、どういう脳ミソしてるんだよ」
 深山………黙れ。っていうか、おまえの脳ミソで法学部は入れたことの方が疑問だ。
「それが、なにか?」
 俺が人並み外れたIQだってことは小学校入学で公になったから、2009年の今はまだ家族しか知らない。だから川崎は、成績がいい=俺が4歳の雨宮陽生と同じだとは考えないはずだ。
 深山を無視してしらばっくれると、川崎はケラケラと笑った。
「ははは、謙遜しねぇってか。でもな、ここ6年の全国模試で君の名前が1度も出ていない。高校にも通ってなかっただろ? それに科捜研の尾形っていう男と住み始めたのは、雨宮雅臣が死んだ頃から。それ以前の君の居場所がどんなに調べても出てこない。これってどういうこと?」
 そういうツッコミがあるだろうとは思っていた。
 いるはずのない人間が突然現れたわけだから、少なからずどこかに歪みが生まれるのは当然だ。だから言い訳は腐るほど用意してある。
「生まれてすぐに両親が死んで、祖父に育てられたんです。祖父はもう年金暮らしだったんで、中学を卒業してすぐに就職しました。だから全国模試なんて受けたことありません。で、その祖父が去年の8月に死んで、自分に自由な時間ができたんで大学に行こうと思って、高卒認定試験を受けてからみな大を受験したんです。これでいいですか?」
 住民票と誤差のない範囲で偽りの身の上を並べると、川崎はその真偽を見極めるようにじっと俺を見た。
 いくら戸籍を改ざんできる相沢でも、さすがに中学校の卒業生名簿まで改ざんできるわけない。もしこいつが俺の戸籍を手に入れて山梨の中学校の卒業アルバムでも調べたら、俺の嘘は確実にバレる。それだけは、絶対に阻止しなきゃならない。
 目をそらさないように、川崎を睨み返した。
 睨みながら、目の前の川崎よりも、真横にいる深山の反応の方が気になった。
 視界には入ってないけれど、深山は俺の嘘を信じきって、鬱陶しいくらいの同情の目を俺に向けているのが、ひしひしと伝わってくる。

 こいつは、本当のことを知ったらどう思うんだろう。
 タイムスリップまで信じるんだろうか。
 目の前で両親を殺された俺に、何のためらいもなく同情するんだろうか。
 俺の復讐心と殺意を、軽蔑するんだろうか。

「じゃぁ、科捜研の尾形は?」
「こっちに来てからたまたま知り合っただけですよ。知ってます? あいつホモなんですよ。だから俺に優しくしてくれるんで、いろいろと便利なんです」
 隣で、また俺の嘘を信じきった深山が、息をのむ気配がした。
「尾形さんを騙したのかよ………」
 自分で言った言葉と、深山の言葉が深く刺さった。
 そこに悪意がなかったとしても、俺は、尾形をそうやって利用していたにすぎない。
 本当に、軽蔑されて当たり前のことを、責められて当然のことをしていたんだ。

「ふぅん。君、意外と強かなんだ」
 川崎はどうでもよさそうにそう言うと、おもむろにバッグから1枚のA4の紙を取り出して、テーブルの上に置いた。
 縦書きの文字だけの、たぶん何かの原稿だ、と思って読んだ見出しは、麻布事件のものだった。

『雨宮総理の長男、暗殺か?
 警察発表と食い違う証言・謎の行動の真相を暴く!』

「これ、去年の8月20日にスポーツ新聞に掲載される予定だった俺の記事。入稿直前に上から圧力があって差し替えられたんだよ。ま、こういう新聞や雑誌にはよくある話だ」
 暗殺なんて噂が出るのは当たり前だから、驚くほどじゃない。ただ、その本文の中段に、俺の知らない情報が書かれていた。
 じっと記事を見入る俺の視線に気づいた川崎が、ニヤッと笑って早口でその部分を読み上げる。
「事件の2日前、雅臣氏がある大物二世議員の息子A氏と会食していたことが判明。A氏との会食が行われた店の関係者によると『2人は激しく言い争っているようだった』という。会話の内容までは聞き取れなかったというが、現在大学生のA氏はボランティア活動などに積極的に参加し『人当たりが良く、明るい』などと周囲の評判もいい青年だ。雨宮氏はこの大物二世議員の息子と、いったい何を言い争っていたのだろうか」

 こんな胡散臭い奴が書いた記事を鵜呑みにできるわけがない。
 けれど、俺も父さんが殺される前の動きを細かく調べたけど、どうしても2日前の夜の行動がわからなかった。
 何より本当に上からの圧力で握りつぶされたんだとしたら、この記事が公になると困る人間がいるってことだ。

 去年の坂崎さんの事件以降、新しい手がかりはほとんどなかった。
 その上、真相に一番近い場所にいた深川賢治が3日前に死んで、さらに道が狭くなった。黒田も口を割らない。その黒田の家族を拉致って香港に行った川井正男の行方だって未だに分かってない。
 頼みの綱は坂崎さんくらいだけど、この前会った感じじゃ、事件関連の話ができるようになるのはまだ先になりそうだ。
 本当に八方ふさがりで、どんな些細な手がかりでも欲しかった。

 そこへ来て、この胡散臭い男が「手がかり」を持ってきた。
 喉から手が出るくらい欲しい。
 ジッと川崎を見据えると、彼は唇を歪めて薄気味悪い笑みを浮かべて構えた。

「暗殺だった、ってことですか?」
 とりあえず根本的なところから探ることにした。
 川崎はアイスラテが半分残った透明容器を投げるようにテーブルの隅に置いて、嫌味を具現化するように苦笑した。
「またまたぁ。君がそう思って調べまくってることくらい知ってるんだよ? 聞くんなら、『このA氏って誰ですか』じゃない?」
「この記事が本当かどうかもわかないのに、そんなこと聞いても意味ないんで」
「本当だって。まぁ、多少の脚色はしたけどね」
「脚色? 偽造の間違いじゃないんですか?」
「まっさかぁ。ほら、例えばこの記事を事実に忠実に校正すると『店に居合わせた客によると、2人はちょっと揉めてたっぽい』ってところか」
 店の関係者は客で、激しい言い争いはちょっと揉めてた、かよ。
 こうやってあの嘘だらけの記事が生まれてくのか………。
 当の本人は嘘を書いてるっていう自覚がないのか、あえて嘘を書いてるのか知らないけど、どっちにしても俺が非難したところでこいつには痛くも痒くもないんだろうな。
 こんな奴らのせいで、抗うつ剤飲むほどダメージ受けてたと思うと、バカバカしくなってきた。
「それで、川崎さんの見解は?」
 ため息交じりに話を進めると、川崎はニヤリと薄い唇を歪めた。
奥田和繁おくだ かずしげは知ってるよな」
「昨日襲撃された、民自党の幹事長ですよね」
 今朝読んだ新聞に、赤坂の料亭に入るところを何者かに火炎瓶を投げつけられたと載っていた。
 川崎は「そ」と短くうなずいて、テーブルの上の紙を指先で叩いた。
「このA氏は、奥田和繁の息子だ」
「息子?」
 奥田和繁に息子なんていたっけ?
「ま、息子っつっても愛人の子供で、毎月養育費は出してるみたいだけど認知してないから知っている人間は少ない。名前は矢上剛やがみつよし19歳 明林めいりん学園大学法学部2年。周囲の評判はすこぶるよく、大学の成績も優秀。その上、介護福祉のNPOでボランティア活動してる好青年ときたデキスギ君だ」
 デキスギなのはともかく、ここまで具体的な話が出るってことは、あながちこの記事はデタラメじゃないのかもしれない。
「その矢上剛が、雨宮雅臣とどういう関係だったんですか?」
 父親の奥田和繁だって、じいさんや父さんと特別深い付き合いはなかったはずだ。ほかに考えられる接点は、教師をしていた時の教え子だった可能性くらいだけど。
「それが分かれば苦労しねーよ。矢上は幼稚園から明林学園でそのまま大学まで進んでるから、公立小学校の教師だった雨宮雅臣の教え子ってわけでもないしね。で、矢上に直接アプローチしたんだけど、雨宮雅臣とは会ったことないの一点張り。しかも俺は奥田の関係者に顔が割れてて悪い印象を持たれてるから、尾行にも張り込みにも限界がある。これ以上奥田ファミリーの周りをうろついたら、出版社に川崎を干せっつー圧力がかかりそうで、お手上げ状態。そこで、だ」
 そう言って川崎はわずかに身を乗り出す。
「君に俺の持っている情報を提供するから、矢上剛を探ってほしい」
 探るって抽象的に言うけど。
「つまり、俺に矢上剛の尾行や張り込みをしろってことですか?」
「別に方法はなんだっていい。逆に矢上と友達になってもいいし。ああ、その方が記事としては面白いな。ただの目撃者よりも友人の証言のほうが説得力が出る。君だったら年も近いし、さっきの同情される身の上といい、矢上のいいオトモダチになれそうだ」
 唇を斜めに歪ませて、他人事のように続ける。
「条件は、そうだな………君の今持ってる情報は欲しいけど、まぁ無理に提供しろとは言わない。その代わり、君が今後得た矢上の情報はすべて俺に報告すること。俺は、俺の今持ってる情報を全部提供する。悪い話じゃないだろ?」
 確かに俺の手持ちの情報を出さなくてもいいという条件はかなりいい。
 それにこの記事が嘘だったとしても、今は何もしないでいることの方が辛い。たとえ数パーセントでも、犯人に繋がる可能性があるなら、どんな些細な情報だって逃さない。

 殺し屋なんか雇って父さんと母さんを殺した犯人が、今ものうのうと生きてると思うと、吐き気がする。
 誰がなんと言おうと、必ず探し出して、すべてを奪ってやる。
 徹底的に、追い詰めてやる。
 絶対に許さない。

「わかっ―――――」
「悪い話だね! かなり、めちゃくちゃ、超悪い話だね!」
 川崎の提案を呑もうとした時、深山が呆れるほど少ないボキャブラリーで俺を遮った。
「こいつガチで怪しいって雨宮! しかもその矢上って奴、殺人犯かもしれねーんだろ? そんな危ねぇ奴に近づくなんて尾形さんが許すわけねーよっ。つーか俺も許さねーし!」
 俺と尾形のこと何も知らないくせに、勢いよく言い切る。
 両親が目の前で殺された人間の気持も、それを同情される人間の気持ちも、何も知らないくせに。
「口出すなよ。尾形や深山の許可がなきゃ俺は何もできないわけ?」
 冷ややかに睨みつけると、深山は真剣な顔をして声を張り上げた。
「違うだろ! 雨宮がこいつから何聞き出したいか知らねーけど、こんな胡散臭い奴に騙されて変な事件に巻き込まれたらどうするんだよ!」
「俺はそんなに馬鹿じゃない。ほっとけよ、俺には俺のやり方があるんだよ」
 けれども深山は、答えは1つ、みたいに。
「じゃ、俺も一緒にやる」
「はあ!? なんでそうなるんだよっ!? おまえには関係ねーだろ!」
「関係ねーって、おまえ今どーゆー顔してるか分かってんのか!?」
「―――― っ!」
 ハッとした。
 同時に、俺を見透かすような尾形の言葉が蘇った。

 ――――犯人を目の前にして本当に殺意を抑えられるのか?

 深山が、俺を強く睨んでいた。
『結局、殺したいんだろ』
 そう言われたような気がした。

「とにかく、雨宮に何かあったら、尾形さんに顔向けできねーじゃん」
 尾形の名前なんか出すな。
「あいつは関係ない」
「んなわけねーだろ。好きな奴がそんな顔してて平気なわけあるかよ」
 真顔で、当たり前のように言う。
 違う。
 尾形は、そんなふうに俺を見ていない。あいつは俺が人を殺すと思っている。
「だからって深山がついてくる必要ないだろ!」
「必要大アリ。ほっとけるわけねーよ」
 なんだよ、そのどや顔は。
「人の話聞け………迷惑なんだよ」
 俺は誰とも馴れ合わない。
 尾形が俺を軽蔑したように、深山だって俺の本心を知ったら絶対に軽蔑する。
 非難されるくらいなら、最初から親しくなんてなりたくない。
「俺に付きまとうな」
「ヤダね」
「……………」

「ま、雨宮君がなんと言おうが付いてく気なんだろ?」
 俺たちのやり取りを胡散臭い笑顔で見てた川崎が口を挟んだ。
「当っっっ然!」
 深山は大きく頷きながら、でっかい声で言い切った。