始まりの日

記憶 - 21

雨宮陽生

 はなぶさの会に向かう電車の中で、斜め向かいの優先席にいる家族連れを眺めた。
 白髪の男性が小さな男の子を膝の上に座らせて、一緒に窓の外を流れる町並みを追って微笑んでいる。手すりにつかまって少し身をかがめた母親が、男の子の靴を脱がそうとしていた。
 その光景が引き金のようになって、幼い頃の記憶が鮮やかに蘇った。

 その日は俺の誕生日で、梅雨なのに雲ひとつない快晴だった。
 俺は縁側に座るじいさんのスーツの膝の上で本を読んでて、母さんは1人分空けて座ってうちわで俺を仰いでくれていた。
「雅臣は僕に似てしまったのか、本当に勝手だな。すまないね」
 俺の誕生日なのに仕事で帰って来られなくなった父さんの代わりに、じいさんが頭を下げた。

 じいさんが唯一頭が上がらない相手が、母さんだったと思う。
 今考えると、あんな素直なじいさんありえなくて笑えるけど、じいさんが素直になれるのは、母さんの前だけだったんじゃないかとも思う。

「やだお義父さん、謝らないでよ!」
 母さんはうちわを持った右手をブンブン振る。その強風で本がめくれそうになって、俺は慌てて手で抑えた。
「このくらいのこと、雨宮先生が政治の道に進むって決めた時からとーっくに覚悟してるんだから」
 この頃の母さんは、お互い小学校の教師だった時の呼び方を引きずって、父さんのことを「雨宮先生」って呼んでた。だから俺も最初は父さんのことを雨宮先生って呼んでて、さすがにそれは変だろってことで、この少し前に直されたっけ。
「私、雨宮先生がやりたいって言うなら、そうさせてあげたいの。やっぱりお義父さんの仕事を小さい頃から見てたからかな、雨宮先生は政治家の方が向いてると思う。考えてることがいつもクラスとか学校レベルじゃなくて、国とか法律レベルだったし。私なんて私立の小学校にいたから余計に考えが狭くて、いっつも感心してたのよ?」
 じいさんは母さんの話を聞きながら、父さんと同じように俺の頭をやさしくなでた。陽生も聞いておけ、と言われたような気がしてじいさんを見上げると、じいさんは柔らかく笑った。
「だから私、雨宮先生はいつかもっと大きな舞台で活躍するんじゃないかなって、実は結構前から思ってたりして。ふふふ」
「だが、君は雅臣の父親が私だと知って、結婚をやめようとしてたじゃないか」
「だって公立小学校の教師がこんなセレブな家の一人息子だなんて思わないじゃない! だから初めてここに来たとき、おまえは住む世界が違うって言われたような気がしたのよ。しかもいきなり中学生のフィアンセとか登場するしその子が茶道の家元の一人娘でめちゃめちゃ可愛いし、心の中で『なんのドラマ!?』とか叫んじゃったわよ」
 そう言ってカラッと笑う。
 それから、ふと何かを思い出したように優しく目を細めて俺を眺めた。
「だからあの時の私は、結婚しても絶対に上手くやっていけない、絶対に失敗するって本気で怖気づいていたの。でもそんな情けない私に雨宮先生が言ってくれた言葉は、何があっても一生忘れないわ」

 ―――君がどんなに迷惑がっても、僕は君に関わることを諦めたくない。

 思わず、頬が緩んだ。
「はは…………なんだ」
 この前、ストーカー深山が俺に言ったことじゃん。
 あれで結婚しようと思うなんて、母さんって相当単純だったんだな。

 でもあの時俺は、母さんとじいさんの会話を聞いて素直に嬉しかった。
 優しく笑う母さんと、じいさんの穏やかな手が心地よくて、ふたりも俺と同じ気持ちなんだと、息をするように自然に信じていた。
 それが唯一の空間だなんて考えることもなく、ただ無邪気に身を委ねていた。
 そのたった2ヶ月後に失うことになるなんて想像することもなく。

 なんでこんなに大切な空間を、忘れたんだろう。
 なんで、俺だけが生き残ったんだろう。

尾形澄人

 神田の実家は、山手と本牧の高級住宅街に挟まれた庶民エリアにある。みなとみらい大学へは徒歩10分程度、付属病院へは20分もあれば着く場所だ。
 カーナビを頼りに大通りから脇道に入って、例によって「目的地周辺です」という曖昧なアナウンスにイラッとしつつ、一戸建てとアパートがぎっしりと並んだ住宅街の狭いコインパーキングに車を置いた。

「この辺だと思うんだけど………」
 手帳を片手に神田家を探す杉本さんに着いていくと、狭い二車線道路の一角で立ち話をしている5~6人の集団を見つけた。そのうちの2人が喪服を着ている。
「あれだろ?」
「だな。喪服じゃない人もいるってことは、やっぱり通夜は明日みたいだなぁ」
 神田さくらの遺体は昨日のうちに自宅に戻されたはずだ。普通なら今日は通夜で、明日が葬儀という流れのはずだけど、明日は友引だから通夜も葬儀も後ろ倒しにしたんだろう。自殺や殺人のような死に方の場合は尚更その傾向が強い。
「日本人って六曜に振り回されすぎだよな」
「そういう文化なんだから仕方ないさ」
 杉本さんのいかにも日本人らしい相槌を聞きながら神田の携帯に電話をする。神田は待っていたのかと思うくらいすぐに出た。
『あら、今日から休むって言ったわよね?』
「まあね。今、家?」
『そうだけど―――』
「ならちょっと出てこれない? 玄関出て右に50歩のところで待ってるから」
『え? 50歩って、まさか――――』
 言いながら歩くような息遣いが聞こえて、携帯を耳にあてた神田が玄関から出てくるのが見えた。神田も俺に気付いて携帯を切ると、家の前の集団に一言、二言声をかけて、こっちに歩いて来た。Tシャツにジーンズというラフな格好だ。
「おい、あれ神田さんか?」
 杉本さんが驚いたように声を上げた。
 確かに普段は長い髪を鑑識の帽子の中に詰め込んでいるし化粧もしないし、やぼったい紺色の制服のポケットには体のラインが分からなくなるくらい鑑識道具を詰め込んでいるから、ぱっと見じゃ神田と気付かないかもしれない。美人を封印する能力にかけては、鑑識の制服の右に出るものはないってことだな。
 神田は俺たちに歩み寄ると、その持ち前の派手な顔に挑発的な笑みを浮かべて、挨拶代わりに。
「日曜日に男2人なんて悲しい人たち―――あ、尾形はその方がいいんだっけ?」
 杉本さんと一緒にいて嬉しいわけないだろ。
「俺にだって選ぶ権利ぐらいある。ちょっと時間ある?」
 俺を睨む杉本さんを無視して本題に入ると、神田は携帯のディスプレイを見た。
「1時間くらいなら大丈夫だけど、慧に会いに来たの?」
「いる?」
 神田は俺の目を一瞬じっと見てから、俺の考えていることに気づいたのか小さく笑った。
「雨宮陽生が羨ましいわ。こっちよ」
 そう嫌味を言うと今俺たちが歩いて来た方向へ歩き出した。
 妹が死んだってのに、相変わらず不遜な態度だな。まぁその方が気を使いすぎる杉本さんにはいいかもしれない。俺としてはつまらないけど。
 そんなことを思いながら神田の後ろを歩いてほんの数十秒で、神田は一軒家の褐色に塗られたアルミ製の門を開けた。
 道路を挟んで神田の家の5軒隣り。ごく一般的なその家の表札には「月本」と書かれていた。
「月本の実家?」
「そう」
 神田は短く答えてインターホンを押す。けれども一向に応答がない。もう一度インターホンを鳴らしてから、呆れたように「もう、また居留守使って」とこぼすと郵便受けの裏から鍵を取り出し、何の遠慮もなくその鍵で玄関を開けた。
 鍵の隠し場所まで知ってるくらいだ。本当に長い付き合いなんだろう。
「慧! いるんでしょ!? 上がるわよー!」
 玄関に入ると、普段の神田なら到底出さない高い声をあげた。それが少し意外で、神田と月本の深い繋がりを見たような気がした。

 月本家の玄関は、奥へ続く廊下と正面に2階への階段がある、ごくシンプルなものだった。
 築20年か30年くらいのごくありふれた木造住宅。けれど見てすぐに妙な違和感を感じた。それが何なのかは、玄関の敷居を跨いでからわかった。
 生活感がないんだ。この手の一軒家にありがちな下駄箱の上の置き物はまったくないし、出ている靴は革靴1足だけ。廊下にも壁にも飾りや荷物が何もない。
 例えるなら、売り出し中の中古物件って感じだ。生活していくうちにできた傷や匂いはあっても、殺風景で人の温度が感じられない。
「家族は?」
「母親がいるけど、この家には住んでないわ」
 神田はすぐ脇のクローゼットからスリッパを出しながらそう答えた。
 つまり父親は離婚したか死んだかってことか。この生活感のなさじゃ、母親も家庭的な女じゃないんだろうな。
「慧、お客さんよ!」
 スリッパを履いて神田の後を追って部屋に入る。部屋に何もなくてもおかしくないと思っていたけど、ちゃんとベージュの布製のL字ソファとローテーブルのある立派なリビングで、その奥に一間続きのダイニングキッチンがあった。ただ、綺麗に片付いていて日常的に使っているような雰囲気はないけど。
「………2階かな」
 神田がそう呟いた時、後ろから足音が聞こえた。振り向くと、階段の中段から月本慧が白けた目で俺を見下ろしていた。そして、露骨にうんざりと、
「…………またあなたですか」
 お、敬語になってる。杉本さんがいるからか? それに、心なしこの前よりも表情に余裕があるような気がする。
「何度もスミマセン」
 一応そう挨拶をすると、月本は何の返事もせずに階段を降りて俺の横を通り過ぎた。
 Tシャツにジャージという、直前まで寝てたような格好のくせに、なぜかまったく隙がない。こいつが思いっきり油断してるところを見てみたいな。
「慧、いるなら返事くらいしなさいよ」
「いないことにしたかったから、あえて返事をしなかったんだけど」
 しれっと厭味な言い訳を神田にすると、俺の方を向いてため息をついた。
「この前も言いましたが、去年の事件については何も知りませんよ」
「じゃぁ、婚約者だった神田さくらさんの事件について話を聞きたい」
 わずかに、月本の目が見開いた。と同時に、神田が身を乗り出す。
「は? なんでそんなこと調べてるのよ」
 神田も気にならないわけがないか。いや、むしろ話してくれる可能性は神田の方が高い。そう思ったけれど、意外にも長期戦を察したのは月本だった。
「…………コーヒーでいいですね」
 迷惑そうな顔をして言いながら、月本はダイニングテーブルに置きっぱなしの電気ケトルを手に取った。
 驚いた。こうあっさりと俺の話を聞くとは思わなかったというのもあるけど、その上さらにこの男がコーヒーを入れるなんて、絶対にしないと思っていた。
「なんか、この前と違わない? 敬語だし」
 思わず神田に小声で聞くと、神田はどこか嬉しそうに笑った。
「この前が変だったのよ。こっちが普通」
「ふーん」
 やっぱりあの時の月本の不機嫌さは、神田さくらの交通事故のせいか。神田はよくあんなタイミングで、俺と月本を引き合わせたな。サディストにもほどがあるだろ。

 神田は俺たちをリビングのソファに座るよう促すと、自分は月本を手伝って勝手知ったるとばかりに迷うことなくキッチンの食器棚からティーカップを出し始めた。
 というか。
 こう見ると神田と月本はまるで夫婦みたいだ。お互いが何をするのか話さなくても、それぞれの分担が初めから決まってるようにコーヒーを入れる。
 もし神田さくらが生きていたら、こんな感じだったのかもしれない。
 月本はこの2年間、こんなふうに2人で暮らすことを願いながら、さくらの傍にいたんだろう。けれどもその願いは、自分の不注意によって叶わないものとなった。
 自分を責め、そして2年前さくらを傷つけた犯人を恨んでいないわけがない。
 やっぱり、俺だったら警察官なんていうオイシイ仕事は辞めずに、その特権を利用して犯人への復讐に全力投資するんだけどね…………。

 月本慧は俺たちにコーヒーを出すと、ダイニングの椅子を神田のソファの後ろに置いて座った。そして杉本さんが簡単に自己紹介をした後、本題を切り出したのは神田だった。
「で? どうして尾形がさくらのことを調べてるのよ」
「まぁ色々と事情はあるんだけど、とりあえずまずは、矢上剛っていう男、知ってる?」
 単刀直入に第一の質問をした。もし神田か月本が矢上を知っていたら、後の話はしない方がいい。
 けれども神田は一瞬だけ考えるように目を伏せて、わずかに首をかしげた。
「知らないけど……………なんで?」
「月本さんは?」
「いいえ」
 無表情のまま短く答える。
 まぁ想定内だ。もし神田さくらと矢上剛の交友関係を2人が知っていたら、捜査資料に矢上の名前が入っているはずだし。ただ、月本に限っては雨宮誠一郎に雇われている以上知っていて嘘をついている可能性が高いけど。
「じゃぁ次に、雨宮陽生は知っているよな」
 神田を見て言うと、神田は深い二重の目をスッと細めた。
「雨宮誠一郎の孫―――じゃない方の、よね? 正直、私はまだ信じてないわよ。あの子がタイムスリップしてきたなんて」
 その言葉を聞いた月本が、神田の後ろから彼女の後頭部を白けた目で見降ろした。
 当たり前だ。誰だってこんなファンタジーをまともに聞くわけがない。
「それが普通だ。簡単に信じる奴がいたらまずバカだな。杉本さんでさえDNA鑑定書見せなきゃ信じなかったんだから」
 実はその鑑定書が完全なハッタリだったと知ったら、杉本さんは心底呆れるんだろうな。けれど。
「DNAって―――それ一致してたの!?」
 神田の問いに、杉本さんは深く頷いた。
「ああ、確かに一致していた。でもな、あいつを見ていれば、DNA鑑定なんてしなくても雨宮陽生だって信じるさ」
 杉本さんは俺が予想した通りのコメントを言ってくれるから好きだ。
 その実感のこもった杉本さんの言葉を、月本は顔色ひとつ変えずに聞いていた。
 信じたとは思えないけれど、笑い飛ばされずに済んだのは杉本さんと神田の反応があったからかもしれない。本当は雨宮に会わせて証明したいところなんだけど。

「月本さん、俺は去年の8月14日から雨宮陽生と一緒に住んでいる。もちろん4歳の雨宮陽生じゃない。2021年からタイムスリップしてきた、17歳の雨宮陽生だ」
「本気で言っているんですか」
 月本は興味のない話に相槌をうつように言う。
「もちろん本気だ。根拠もある。あいつは麻布事件が起きる前に自分の両親の命日を知っていた。それに雨宮誠一郎が去年の9月に総理を退任することも、次の総理が誰なのかも知っていた。何よりも、あいつは自分の目の前で両親を殺した犯人を、心底恨んでいる。殺したいほどにね」
 最後の言葉で、月本の二重瞼がわずかに細められた。

 杉本さんの言う「あいつを見ていれば」は、「雨宮の復讐心を目の当たりにすれば」ということだ。
 それが何よりも、雨宮が雨宮雅臣と雨宮祥子の息子だということを証明している。

 月本はしばらく何かを考えるように俺の前に置かれたコーヒーを見つめて、それから静かに口を開いた。
「彼は、両親に関する記憶をすべて失っているはずです」
「あの事件の日、17歳の雨宮陽生も現場にいたんだよ。あの家で瀕死の両親を目の当たりにして、それをきっかけに、忘れていた記憶を取り戻した。血まみれの父親が4歳の自分を抱きながら死んでいったことも、母親が一瞬で殺されたことも、なにもかも思い出したんだよ。17歳の雨宮は」
 きっと雨宮自身も、こんな悲惨な過去があったなんて思わなかっただろう。
 現場に行ったことを後悔しているかもしれない。
 行かなければ辛い過去を思い出すこともなく、憎悪や復讐なんて感情も知らずに済んだかもしれない。
 それを促したのは、確かめてみたらどうだと言ったのは、俺だ。

 無表情で俺を見る月本を、まっすぐ見据えた。
「月本さん、あんたなら、わかるだろ」
 雨宮が何を考えているのか。
 どれほど、苦しんでいるのか。
 理不尽に恋人を奪われたあんたなら、わかるはずだ。

「あいつは犯人を捜し出して、復讐しようとしている」
 しかも麻布事件の黒幕が誰なのか、雨宮は答えを手に入れかけている。
「口じゃ復讐なんてしたくないって言ってるけど、犯人を目の前にしたら殺しかねない勢いだ。理屈じゃない、人間なら当然の感情だろ」
 やられたらやり返すという生き残るための生存本能が、復讐心の根源だと言う学者もいる。けれどそんな単純な本能じゃない。
 人が、人を愛する。その強い感情があって初めて、復讐という感情が生まれる。
 愛情が深ければ深いほど、憎悪の闇も深い。
「俺はね、それを止めたいわけ。雨宮がタイムスリップした理由は、復讐するためなんかじゃない。そんな退廃的な活動なんてやめて、もっと前を向いてほしい。これからのために時間を使ってほしい。でも俺が口でなんと言おうと、あいつの中から復讐の二文字を消すことはできないし、無理やり止めたところで雨宮の気が晴れるわけでもない。
 だから、雨宮が犯人を突き止める前に、俺が犯人を逮捕しなきゃいけない。雨宮よりも先に麻布事件の黒幕を突き止めて、少なくとも懲役10年以上の罪で犯人を送検しなきゃいけない」
「10年以上の罪?」
 ふいに神田が短く口を挟んだ。
「そのくらいの時間があれば、雨宮の復讐心を浄化できるだろ。つーか出来なかったら俺がへこむ」
 少し冗談っぽく言うと、それに乗るように神田も小さく笑った。
「ふふ、確かにカッコ悪いわね」
 神田らしい気の使い方がありがたい。下手に否定されるよりも、ジョークにしてくれた方が気が楽だ。そうしていくぶん和やかになった空気を、月本がしらけた口調で遮った。
「それで? その雨宮陽生の復讐とさくらがどう関係してるんですか」
「さあね。でも基本的に麻布事件にしか興味のない雨宮が調べているんだよ、神田の妹と矢上剛のことを。それはつまり麻布事件に何か関係があるってことで、雨宮の復讐を止めたい俺としては、雨宮よりも先にその2つの接点を知らなければならない。だから、あんたに会いに来た」
 無表情のまま聞く月本のかわりに神田が口を開いた。
「でもあの子、高校生でしょ? そんなに心配しなくても――――」
「神奈川県警のサーバーにハッキングしてたんだよ」
「県警にハッキングって、あの子そんなことができるの!?」
 信じられないとでも言うように目を見開く。
「それ以上のことも、あいつならできる。だから怖いんだよ」

 月本が、ゆっくりと目を閉じた。
 わかるだろ。あいつを警護した、あんたなら。
 雨宮がどういう子供なのか。